二人の物語
男性バディが尊い小説を紹介するブログ
読んだ小説

血の呪いから逃れようと、日向と日陰で足掻く二人の青年の物語「死にたがりの完全犯罪と部屋に降る七時前の雨」

あらすじ

「世界なんていっそ滅びればいいのにな」そう嘯(うそぶ)く先輩・月也との二人暮らしは面倒くさい。感染症で大学は閉鎖、外出もままならない。暇潰しと小遣い稼ぎに後輩の陽介は「お悩み解決サイト」を始める。けれど、「妙な癖を持つ夫」「虚言癖の妻」「自粛警察の妹」と舞い込むのは、厄介な依頼ばかり。煩わしい日々の中、やがて明かされる月也の“親殺し計画”、 21年前の秘密、犯行を防ぎたい陽介の想い……。探偵か犯罪者か――日常の謎を解く短編と「死にたがりの探偵」の完全犯罪計画。言葉よりも大事な感情を紡ぐ二人の物語。

「なぁ日下。俺が浮気したらどうする?」
「え……」

山吹あやめ. 死にたがりの完全犯罪と部屋に降る七時前の雨【電子限定書き下ろしSS特典付き】 (TO文庫) (Kindle の位置No.515-516). TOブックス. Kindle 版.

この二人に注目!!

桂月也

都内の大学に通う三年生。
理科大学物理専攻。
二人暮らしは陽介任せ。
実家はとある田舎町の政治家一族であり、本人もその将来を期待されている。
しかし、その期待はあくまで「家を継ぐ後継者」に対してであり、「月也」本人に対しては――

日下陽介

都内の大学に通う二年生。
教育学部家庭科専攻。
家事全般を担当。
月也同様、実家がとある田舎町の権力者であり、本人にもその後継を期待されている。
家族との関係性により、自ら暗いところへ歩みを進める月也を踏みとどまらせたい。

二人の関係性 ★★★★☆

せっかく去年、陶器市へと小旅行したのだから、揃いのカップでも見繕えばよかったと今になって後悔した。

山吹あやめ. 死にたがりの完全犯罪と部屋に降る七時前の雨【電子限定書き下ろしSS特典付き】 (TO文庫) (Kindle の位置No.431-432). TOブックス. Kindle 版.

二人の関係性は最初からアクセル全開です。

出会いから描かれる物語が多い中で、幼少期から知り合いであり
現在は同居している二人の距離感は開始からかなり近いものがあります。

過程をすっ飛ばしてすでに関係が出来上がっているバディものを期待している人にはお勧めです。

ただ、二人にしか共有できない空気が濃く、初めのうちは読者が置き去りにされている感が否めませんでした。

また、二人の複雑な心情を表現するためにあえて曖昧な表現が多用されており、それも読者が置き去りにされているように感じる原因となっています。

ただ、その曖昧さが二人の心境を物語っているともとれるので、悪いことばかりではありません。

出来上がった関係性は読みたい人にはおすすめの反面、二人の関係性の進展を見守りたい読者には不向きかもしれません。

推理小説として ★★☆☆☆

推理小説としては、リモート探偵ということもあって情報が少なく、答えに至る過程があまり現実的ではないように感じました。

どの答えも「確かにそういわれればそうかも」というもので、ほかの答えを用意しようと思えばできそうです。

なので、推理小説としてはあまりすっきりとしない印象を受けました。

物語の楽しさ ★★☆☆☆

日向側に留めておきたいものと日陰側に堕ちていくもののバディものです。

登場人物の過去が暗い上に、思考もあまり前向きとは言い難いので物語全体が暗い印象になっています。

読んでて若干気がめいってしまう物語の暗さでした。

最終的にはそこまでバットエンドではありませんが、それはあくまでも最終話の話であり、その話に至るまでの短編集は主人公の暗い思考にのみ晒されます。

暗い話が嫌いというわけではありませんが、推理小説としてのキレもあまりよくないことから、楽しくてどんどん読み進めてしまう。という感想は残念ながらありませんでした。

続きを読みたい ★★★☆☆

正直短編集として読むには登場人物の思考が暗いせいで気がめいってしまいます。

推理小説としても、あまりキレのあるものとは言い難いです。

正直こういった続編が約束されていない小説の一巻は、多くが短編集になりがちです。

物語がぶつ切りになっている短編集とこの作品の登場人物たちは相性が悪いのだと思います。

一巻を丸々使った長編であれば、暗いばかりの思考ではなく、一つの話の中で浮き沈みがあるため、二巻以降の物語に期待したいです。

二人の関係性と、物語の結末は見届けたいと思わせる作品でした。

どうか9月の旅行に無事行けますように。

陽介が予想よりもはしゃいだからだろうか。気恥ずかしそうに月也はリモコンをつかんだ。

山吹あやめ. 死にたがりの完全犯罪と部屋に降る七時前の雨【電子限定書き下ろしSS特典付き】 (TO文庫) (Kindle の位置No.775-776). TOブックス. Kindle 版.
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