二人の物語
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notBL小説

幻想に近く、世界に取り残された寂しい二人の物語「英国幻視の少年たち」

あらすじ

日本人の大学生皆川海(カイ)は、イギリスに留学し、ウィッツバリーという街に住む叔母の家に居候している。 死んだ人の霊が見える目を持つカイはそこで妖精に遭遇。 英国特別幻想取締報告局の一員であるランスという青年と知り合う。 大学の構内で頻繁に貧血で倒れているランスをかまううちに、カイは次第に、幻想事件“ファンタズニック”に巻き込まれていく──。 

この二人に注目

ランス・ファーロング

英国内で起こる、幻想生命体による事件の解決にあたる組織、英国特別幻想取締報告局の一員。
かなりの偏食で、放っておくとトマトしか食べない上に、よく体調を崩してそこらへんに倒れてる。
しかし、ただの病弱な青年と侮るなかれ……

皆川 海

大学生。あることをきっかけに一族の変わり者である叔母を頼ってイギリスの大学へ留学中。
料理をするのが好きで、ストレス発散に手の込んだ料理をする性分。
幻想生命体に対してもあまり偏見を抱かず、気後れすることなく接する。
犬が好き。

二人の距離感 ★★★★★

「毒 を食らわば皿まで」
「なに?」
「ヤバいことをやるんなら徹底的にやれって、日本のことわざ」
「へえ」
「英語では?」
「子羊を盗んで縛り首になるなら、親羊を盗んだほうがマシだ」
「じゃあ、それだ」

深沢仁; ハルカゼ. 英国幻視の少年たち ファンタズニック (ポプラ文庫ピュアフル) (Kindle の位置No.679-681). 株式会社ポプラ社. Kindle 版.

一巻ではバディ小説というよりも、二人の主人公がそこにいるだけ、と感じるかもしれない。

もとより他人に興味がない者同士なので、それぐらい二人の関係性は稀薄、に見える。

しかし、限りなく幻想生物に近い場所に生きている二人が出会って、干渉しあうのは奇跡という他ない。

本当に出会えてよかった二人だと思う。

お互い周りから取り残された者同士が、紆余曲折しながら現世に留まろうとする設定は、どことなく高槻シリーズを彷彿とさせる。

高槻シリーズが好きな人には刺さるかも。

しかし、あっちの二人よりこっちの二人の方が、向こう側に近く危うさを感じる。

キャラクターの魅力 ★★★★★

「もっと大きな声で言ってくれる?ここは図書館だ」

深沢仁; ハルカゼ. 英国幻視の少年たち ファンタズニック (ポプラ文庫ピュアフル) (Kindle の位置No.1616-1617). 株式会社ポプラ社. Kindle 版.

一巻時点では、ランス、カイともによくわからない。と感じるかもしれない。

しかし、そんな二人の、この世界から取り残されている雰囲気を楽しんでほしい。

また、そんな中垣間見える、カイの世話焼き、ランスの怖さも必見。

特にランスの怖さは、是非感を読み進めて体感して欲しい。

あの、いつでもぶっ倒れている病弱青年が怖いんだなぁ、これが。

不思議な力的な意味でも、イギリス人的な意味でも。

個人的に特に好きなのは、作中に出てくる皮肉の数々。

概念イギリス人好きには刺さる会話が多数繰り広げられています。

作者は翻訳を生業としておし、イギリス滞在期間も長いため本場仕込み。

主人公二人以外の登場人物も大変魅力的です。

中でも一巻ではとっくにマリコさんのカッコよさにほれぼれして欲しいところ。

主人公たち以外にスポットライトが当たる番外編集も出ているので是非。

話の面白さ ★★★★★

私は大好きですが、ファンタジー色が強いので人を選ぶかも。

イギリスには妖精も幽霊もいる。という伝承を、自分には見えないけどそういうものなんだ。と受け入れられれば読めると思います。

そのほかの設定は現実に基づいているので、まるで伝承の生き物が、自分には見えないだけでイギリスには本当にいるのかもしれない。という気持ちにさせられます。

旅行に行きたくなる本です。

文章的な魅力 ★★★★★

私はこの作者の大ファンなので贔屓目たっぷりで描きますが、文章がかなり上手いです。

具体的には「寂しい」を文章で表すのに、今のところこの人以上に的確な人を知りません。

話の内容ではなく、文章で感情を表現できるのだと初めて知りました。

会話文は皮肉が効いており、くすっとしながら読み進められます。

しかし、いかんせん文章で「寂しい」をふんだんに表現されているので、読むとちょっと疲れる作品でもあります。

気持ちのいい疲れを感じたい人にはおすすめ。

まとめ

一巻を読んで少しでも気に入った人は、是非二巻まで読み進めて欲しいです。

私は既に最終巻まで読みましたが、二巻が一番好きです。

バディ小説としての成分も巻が進むにつれ濃くなっていきます。

有名な宝石商シリーズを読んでいる人にもお勧めしたい作品です。

理由は、説教をするとき自然に足を組んで、息をするように相手に高圧的な態度を取れるイギリス人が見られるから。

優しいからこそ、親しい人間に対してだけ本気で怒り、怒ると怖いリチャードが好きな人はランス・ファーロング好きだと思います。

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かやの
本と時々絵

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